★ 日本で「中医鍼灸」を学びたい ★
>名前 =B・M
>性別 = 男性
>age 30to39
>メッセージ =
はじめまして、N大学の生殖機能協関学という教室(難しい名前ですが実際は産婦人科です)で助手をやっておりますBと申します。
小生は医師になって10年ちょっとというところで、更年期医学を専門としております。ご存じのように更年期の分野では西洋医学的には sex steroid ぐらいしか有効な治療が無く、その他にはカウンセリングや運動療法を組み合わせていくぐらいで、これらの無効な患者さんには打つ手がありません。(もちろんそれ以外にも更年期以降に好発する高脂血症や骨粗鬆症についてのフォローはしていますが…)。そんな中困ったときの漢方だよりということで独学で使いはじめた漢方薬が思いの外奏功し、興味を持ち始めたのが3年ほど前だったでしょうか。ついにはこの春大学を辞め、国際中医師を目指して本格的に勉強することとなりました。
本格的なきっかけは1年半ほど前に、遼寧中医大学から産婦人科の教授が大学院生として留学されてきたことだったでしょうか。1年間簡単な講義を受け、すっかり感化され、何とか本格的に勉強したいと思ったところに、新宿に遼寧中医薬学院という遼寧中医大学の日本分校のようなところがあることを知りました。お茶の水の北京中医大学日本分校が突然廃校になってしまった
後、どうやって勉強したらいいかと思っていた私にはまさに渡りに船でした。すでに数ヶ月前に入学手続きをし、現在通信教育で勉強中です。

 4月から仕事を辞めて本格的に勉強しようと思うのですが、最近鍼灸の効果にも興味が湧いてきました。できることなら鍼灸師の資格も取ってしまおうかとも思っております。(資格が無くても医師免許があるので鍼灸行為自体はできてしまうのですが…)。ところが、色々な鍼灸学校の情報を集めても、本格的な中医学の理論にのっとって教えているところは少ないようです。もしもお勧めの学校や勉強方法がありましたらお教え願えないかと思い、ご質問を差し上げる次第です。突然不躾な質問で申し訳ございません。簡単なお答えで結構ですのでご連絡いただけましたら幸いです。

 B・M様へ     
こんばんは!ツボ探険隊の松岡です。
返信が遅れてどうも済みません。

まず「中医鍼灸」についての私見を述べさせていただきたいと思います。
(当然「日本鍼灸」にも言及しない訳にはいかないから長くなりそうだナァ〜)

ご存知のように中国の伝統医学に基づいた「中医学」では「薬方」と「鍼灸」が最も大きな治療手段です。
他にも「推掌」「気功」など有りますがメインはこの2つです。
しかし、もっと正確に言うとその比重は「薬方」が7割から8割を占めているように思います。ですからあくまで「中医学理論」は「薬方」でこそ100%生かされ意義を持つ「理論」であるように思います。
「鍼灸」の場合は「四診」〔特に脈診)により細かな診断をしても、患者さんをぱっと見て、手短かな診察をしただけの場合と全身の多くのツボ群から、導かれて抽出されて来る「ツボ」に実を言えば大差ありません。
(ツボへの手技は変える必要が有るかもしれませんが・・)

経絡外の「奇穴」を入れても全体で500も無いツボ数の中でも、はっきりと効果が現れる日常的に治療に使われる重要なツボ(生体を大きく変化させ得るポイント)はその1割も無いからです。
「薬方」の場合は、例えば患者さんに二者択一で「問診」を進めて行くと、選択次第で処方される薬は全く違ってくる訳ですが、「鍼灸」の場合は途中からは「イエス」「ノー」のどちらを答えても「ツボ」自体は同じだったりします。

同じ「ツボ」が、プラス方向にもマイナス方向にも働く、その効果に「双方向性」を持つことも「薬方」と違う大きな特徴です。

ですから早い話、精細な「中医学理論」と「鍼灸」の治癒メカニズムとは「整合」していないと言っても過言で無いですね。「薬方」と「鍼灸」では同じ中国伝統医学に端を発していても、その治癒に至る、というか身体を変化させるメカニズムは次元も位相も全く違っていると思っています。
「中医学」の「陰陽五行」と云う名の「哲学」は、「鍼灸」という「生命」のごく原始的なダイナミズム(”生命の神秘”と呼ばれている部分)をも丸ごと利用した治療法までもは説得力を持って論じ切っていないと思います。
つまりは「薬」を利用した「化学変化」と鍼灸などの「物理変化」を利用した治療法の両方を一括りにする「法則」は如何な中国の歴代の賢人達でも「創出」(?)出来なかったと云う事でしょうか。(勿論未だに世界中の誰にも出来ない・・)


例えば柱の角で頭を打った時、私達は無意識に頭を手で撫でています。すると少しは痛みの鋭さが減じてくる気がします。この様に身体の問題箇所を直接的に「撫でたり」「マッサージする」ことで軽減する症状も確かに有りますよね。
同じ理屈で「ツボ」でも「経絡」でもない「痛む部位」(局所)に向けて打つ「鍼」は「あんまバリ」とか「柔整(柔道整復)バリ」とか呼び、東洋医学でも何でもない訳ですが、これも結構よく効きます。 簡単な労作性の「肩こり」や単純な「腰痛」は「中医学理論」など一行も学ばなくてもこれで治ります。
つまり患者さんが苦痛を訴える部分を丁寧に観察しながら「鍼を打つ」だけで、
「陰陽五行」など知らずとも反射的な「生体反応」を喚起してかなりの病気が治せるのです。
最初から局所変化のみを狙った鍼治療です。それ以外では「経絡治療」も「日本鍼灸」の特徴です。病気の位置、位相を経絡から判断して治療方針を立てる方法です。日本の鍼灸学校で教える「鍼灸」は基本的にはこのレベルのように思います。日本では鍼灸需要の多くがこのような「肩こり」「腰痛」の患者さんで有る事も事実ですから、「ニーズ」に応じた「授業」を行っていると言っても良いのかもしれません。
鍼灸学校はたった3年間ですし、国家試験では「臨床力」は問われない訳ですから、学校としても合格率に関係無い「中医鍼灸」の授業は必要無いんですね。
(「教養」として、或いは将来の技術の研鑚においては必要と認めても・・)
しかし、上記の位置的、局所的鍼灸では治せる病気が限られてくる事もまた確かで、慢性病、アレルギー疾患、免疫不全病、精神科疾患等々の「局所が限定出来ない」全身病に成って、初めてしっかりとした「四診」(中医学理論)の出番が来ますね。茫洋とした「生命の海」への航海には「羅針盤」は今のところこれしかない訳です。この時点で中医学的「理論展開の面白さ」が治療術に加わる訳ですが、これに「耽溺」すると又一般的な疾患の治癒率がズドンと落ちたりして難しいモンです。
中医学理論に頼り始めると現実(=目の前で苦しんでいる患者さん)とは無縁の抽象的な世界で形式論理だけを追う「ドン・キホーテ的治療師」になってしまいがちです。(哲学好きのフランスの中医師はこの傾向が強いように思います)どうしても「事実」に勝る「理論」はない事を忘れてしまうんですね。
話が饒舌に成って拡散してしまって済みません。
まとめましょう。

@「中医学理論」のみに頼っては効率的な鍼灸治療が出来ない事。この点で「薬方」と「鍼灸」は全く違います。鍼灸治療は「様々な生体反応」を利用しているので、現段階では「理論で一括りには語れない」と思っています。

Aしかし、「難病」に対して挑むには「中医学理論」的視野も必要で有る事。
外からの「科学的観察」(?)にも限度がありますから、現代医学でも手を焼いている「難病」には様々な角度から大胆な仮説を組み立て模索しながら治療を進めて行く必要が有りますね。何らかの「哲学」が有る方が治療への「方向性」が得やすく病態の「現在地」の確認にも役立つと思います。つまり「座標軸」として機能させる事が出来ます。


B私の結論(あくまで私見ですが・・)
鍼灸においては、お互いに異なった生体反応のメカニズムに働きかけて「効いている」としか思えない事が多々あります。ですから、あの「流儀」もこの「流派」もそれぞれに得意とする疾患や治効率は違っていても、どれも全否定は出来ないです。「あれ」も「これ」も一応は「有り」としても現段階では間違っていないと思います。つまり「日本鍼灸」にも多いに見るべき「価値」が有るはずだと思っています。

(別の問題に成りますが、事の是非はともかくとして鍼灸師個人の「人格」も日本では重要視されている様に感じます。中国では単に「技術者」としての「鍼灸師」を強く感じます。これは日本が鍼灸に対してより後進的で有ると見るべきなのか、「病を癒す治療」を「心と身体の全人的作業」との先進的な考えによる結果とするべきなのか難しいところです。)


まず日本が生んだ「日本鍼灸」〔=百花繚乱で一概には言えませんが・・)「哲学」が確立していない分だけ「観察主義」、有る意味「科学的」と言えるかもしれませんので、先ずそれを学ばれて、その後に「中医鍼灸」で仕上げをするってのが良いと思います。外国でも現在は丁寧な施術の「日本鍼灸」の人気が上がって来ていますし、少なくとも日本においては、中国人の鍼灸医師(中国の医大で鍼灸を学ばれた)の開業成功率は決して高くないそうです。「日本鍼灸」の病に対する「是々非々」の「柔軟な治療スタンス」も捨て難い部分が多々有ると思います。それに「痛くない」「低リスク」治療を目指す「日本鍼灸」で中医学的視野を持って適応疾患が増えればこれに勝るものは無いですからね。

全日本鍼灸学会のページ http://www.jsam.jp/
からご住所地の鍼灸師会へ連絡されて見学、研修の可能な治療院をお聞きに成り、片っ端から行かれて、その中から言行が一致している(大風呂敷を広げる人間が多いのが日本人鍼灸師の特徴であると中国人によく言われますので。(苦笑)・・・と思われた所へ折に触れ(薬方で改善しない患者さんを抱えた時など)研修に行かせていただく事をお願いするのは如何ですか?


「概論」はここまでにして
肝心のB先生の婦人科に関しては「於血」(おけつ)証が多いはずですから、ここまで「鍼灸」を語っておいて今更何ですが、実は「鍼灸」よりも「薬方」がベストではないでしょうか。
「鍼灸」と「生薬治療」とを同時に行うのは、実はどっちが効いたのかも不明で「正確なデータ」が取れない難点も見逃せませんから、特に医師の方々は我々鍼灸師と違い薬物治療を行う特権をまず十分に行使された後に、確かな効果が出ないケースのみ「鍼灸」に出番が廻ってくる感じで良いと思います。

私の見聞では「薬物治療」は勉強量(努力)がそのまま成果となって実を結ぶ方が多い様ですが、「鍼灸」は必ずしも努力に成果が比例しません。
「医薬品」と言う標準化された「第三者」が介在しない分だけ「才能」の出る幕が大きいのでしょう。
その意味で「薬方」よりも「鍼灸」の方が学ぶ者にとってリスキーです。ちなみにお書きに成っている「遼寧中医大学」の付属病院(遼寧省:しん陽)へは半年ほど前に行きました。あそこは「鍼灸学科」のウエイトが高く他の中医大学よりも「鍼灸」のレベルも高い様に思います。「中医鍼灸」を学ぶのはあそこが良い様に感じました。他は上海も北京もやはり「方剤」「薬方」のウエイトがダントツって感じです。外貨獲得政策で中国の何処の中医大学も短期(1週間前後)から長期(数年)まで留学、研修制度が整っています。

又、私がよく行った上海中医大学では「国際科」に日本語専門の中医通訳の素晴らしい中国人教授(張先生=女性)も居ます。例え数日間でも実際に中医診療現場を見るのが、「百聞は一見にしかず」で何事を成すにも手っ取り早いと思います。
一昨年、上海中医大学付属曙光病院に患者さんを連れて行って来ました。病院の調剤部の様子などの写真を添付します。中国の医療現場の雰囲気を感じ取って頂いてご参考にして下さい。

※写真の解説
曙病院の外観、調剤室、友人の中医師の診察風景、彼はコンピューターで処方箋を書いています。別の中医師(胡建華医師=中国でも有名な精神科専門の中医師)の手書きの処方箋。写真の開いている薬は1日分で、1週間分をヒモで縛って呉れました。クコの実やカイコの繭が見えます。(凄い量でしょう!)

思いつくままに書いていたら、メールももの凄い分量に成っていました。失礼!!失礼!!


上海中医薬大学付属「曙光医院」です。この大学は大規模の付属医院があと2ヶ所有ります。現在の中国の伝統医学病院もほとんどは中国伝統医学と西洋医学の結合治療を行っていて、検査機器もX線からMRIまで揃っています。 「曙光医院」の調剤室に入れて貰いました。一つ一つの厚紙の上に処方箋通りの生薬が1日分づつ乗せられて行きます。
これだけで1日分です。大きな「カレー皿」に入れても溢れるほどの量です。白い玉はカイコの繭で、これを振ると「カラカラ」とカイコの音がしました。左側の茶の繊維状のモノは「とうもろこしの毛」でした。この他にクコの実、ナツメも見えます。この薬はインシュリン依存性糖尿病の方に処方された薬剤で、先の生薬類はどれも身体に「元気」を付ける為の「補剤」です。 1週間分づつヒモで縛って貰いました。2日ほど待てば全て煎じて1日分づつ「真空パック」にしてくれるのですが(別料金が必要)、翌日には帰国予定でそのまま持ち帰えられました。確か1ヶ月分で8千円程度支払っておられた様に思います。(保険無しなので結構高いですね)もっとも日本人にはこの1ヶ月分は体力的に多すぎます。事実上2ヶ月分以上と考えて良い分量ですね。そうすると1ヶ月分4千円程度となり「安い」かもしれません。
これが1週間分で「みかん箱」1つ分ほどのカサにビックリ!! 鞍山中医院の副院長で生薬研究所の所長でも有る朱先生は沢山の薬を開発している名医ですが、早くからパソコンを導入しアメリカ在住の「華僑」の患者さんをメールで診察し、薬は航空便で送っています。
朱先生は海外へ送る為に生薬効果を出切るだけ落とさず顆粒にする方法も開発しています。 パソコンには処方料、薬代の総計が833・4元と記されています。これは3ケ月分の金額で日本円で約12000円くらいです。顆粒薬は多少は安いようです。
左は3年前に上海中医薬大学付属「龍華医院」の精神科中医師による「うつ病」患者さんに書かれた処方箋です。胡建華医師は中国でも有名な精神科中医師ですが、一見すると丸で白人のような風貌で身長も180センチを越える威風堂々とした「老医師」で、さすがにこの先生の処方箋は手書きでした。精神神経疾患ですから、やはりまず最初に「柴胡」(胸部の鬱滞を取る)が書かれています。その他「百合」「菖蒲」など誰でも知っている花の名も見えます。如何にも生薬処方箋で、「四診」の中でも主に「脈診」で薬剤の分量(数字で書かれている)を決めている様でした。

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