★ なぜツボに鍼を刺すのですか? ★
> 名前 =Marimo
> 性別 =女性
> age = 30to39
>>メッセージ =
> こんにちは、はじめまして東洋医学に興味があるので時々訪問させていただいています。
>それでちょっと疑問が湧いてきましたのでおたずねします。
>こちらのページを拝見すると>ツボはハリを刺すとかばかり書かれているのですが、>押すのは効果がないんですか?
>(私はハリはどうしても抵抗があります。)

Marimo様へ
こんにちは! ツボ探の松岡です。ホームページをご愛読ご訪問いただき有り難うございます。
御質問のツボを押すこととハリを刺すことの違いについてですが、先ず第一に物理的刺激に対する感受性は知覚神経が発達した皮膚表面が特に敏感で鋭い訳ですから、身体に刺激量を学習されない(慣れ現象を起こさない)為には「皮膚表面」の刺激「面積」を少なくする事も非常に大事なのです。(皮膚の奥深い部分は元来刺激には敏感ではないのです)
その意味で鍼(はり)が、皮膚表面の刺激面は文字通り「針の穴」程度に過ぎない訳ですから人間の脳にも学習され難い為に効果が何度も繰り返し得られる点で「ツボ刺激方法」として非常に優れているんです。(もっとも一度の治療に100本以上も鍼を刺すのは論外ですが・・。)でないと誰も好き好んで金属の針を身体に刺そうと思いませんし、何千年も懲りずに継承しないでしょう。

日本では「ツボ」と言うと「押すモノ」って感覚がやけに普及していますが、これはいわば日本独自の通念でしかないんですよ。ツボは鍼灸医学の根幹で元来は「刺すモノ」或いは「焼く=火鍼」or 「暖める=お灸」モノなのです。
ですから「ツボ」を「押す」のは実は最初から「ツボ」本来の使用目的からは相当に離れた方法であると理解して頂きたいと思っています。
「ツボ指圧」は確かに簡便で一時的な不具合には効果を発揮しますが、繰り返し行うには身体に新たな歓迎せざる変化を起こし易いのです。ツボの押しすぎは逆効果?を参照下さい

上の理由とはまったく別の問題として実は「ツボ」の持つ治療効果の多くは「押す」事によっては得られません。「ツボ指圧」と「ツボ鍼灸」とでは、その仕事の質量に於いて「初期ワープロ」と「最新のパソコン」以上の開きがあります。
ほとんどの病院内に鍼灸科があり医師が鍼灸で多くの病気を治す中国では「ツボ」を押すという考え方は市民にまったく普及しておりません。「ツボを押す」程度では本当の病気は治せないと知っているからです。逆に日本で「ツボ押し」が普及しているのは最初からツボで病気を治すという発想をしていないからに過ぎません。
つまり「ツボ」が持つ効果に対してシビアな感覚を持っていません。「ツボを押す」という簡便な発想は効いたら儲けもん、ダメ元のおそらくは「当たるも八卦」的感覚の延長線上に有るのではないでしょうか。医学とはほど遠い感覚です。

話が長くなるので恐縮ですが、事を分かりやすくするために具体的な例を挙げてみます。
「足の三里」という有名なツボがありますね。どの鍼灸辞典を紐解いても記載されているこのツボの主な効果(主治)としては以下の症状が上げられています。



@脚気、浮腫、膝関節痛、下腿麻痺、

A胃痛、嘔吐、腹部膨満、消化不良、腹鳴、下痢、

B半身麻痺、赤痢、虚労(内臓全般の弱体)乳房痛、乳腺炎

C眩暈、癲狂、人事不省、暑気あたりによる意識障害

D五十肩(全身関節痛)全身疲労
足から胃腸、精神病と実に様々な効果を持つツボで、こんなツボは全身でもココだけでしょう。
これは逆算して考えると元は四つ足動物から進化した生物である人間が重い上半身を支え直立歩行を行い生きていく上で膝下のこのツボの辺りにもっとも多くの力学的負荷が掛かっているかも知れないのです。ちょっとオーバーな表現をすると「膝がしっかりしないで人間らしい直立歩行生活は出来ない」と言えるかも知れません。年老いても長歩きしても膝がガクガク不安定に成ると行動力を一気に失います。「膝が笑う」という表現もありますね。こうなると頑張ってももう動き回ることは出来ません。膝に力が入らないと先ずしっかり立てないですからね。それで昔の人は長旅に出る前には「足の三里」のお灸を続けて準備を整えたのです。松尾芭蕉も「奥の細道」の序章で深川の庵で「足の三里」にお灸をして旅に備える旨の表現を記しています。庶民にとって徒歩しか旅の手段がない時代では健脚のツボ=足の三里を知らない人はいなかったのです。

・・という「足の三里」のツボですが、多くの症状に私は上記の如く@〜Dまで番号を勝手に振って仕訳しました。普通はこんな番号を振った仕訳は存在しません。鍼灸を長年学んだ方も「足の三里」の主治を示すこんな仕訳一覧は見たことが無いはずです。

実はこの番号は私の体験から「足三里」のツボの深度(@浅い→D深い)とその効果を表現したモノです。やはり多少は個人差が有りますがほぼこんな感じで試して頂いて大丈夫です。
つまり
@の症状は足三里のツボの比較的浅い位置にツボ変化、不具合が存在する。ですから鍼ならば少し(1センチ以内)刺しただけでも効果が望める症状です。最も慢性化している場合は深い所まで変化が及んでいるのでもっと深く刺さないといけませんが。

Aはそれ以上の深さの所にツボ変化が現れる事が多い。
ですから1センチから2センチ程度の深さに針を刺して治療します。子供や若者は1センチ以下、もっと浅くても同じ効果が望めますが、罹患してからの時間が長いほど変化は奥深い所に及んでいるので上記と同じく慢性化している場合はもう少し深く刺す必要も生じます。

Bこれは深さはAと同じ程度でも刺している時間を長い目に置きます。
置き鍼、留鍼ですね。15分〜20分程度が良いでしょう。余り長すぎると過ぎたるは尚及ばざるが如しで治癒エネルギーを浪費し逆効果になります。

Cこれは「足三里」のかなり深い位置にツボ変化が存在まします。
地球で言えば地表(地かく)のもっと奥深い「マントル」が有る辺りでしょうか。地球も地中深い位置に進むほど他の地かくとも内部では繋がっていますよね。
つまり人間の場合もツボの実際の効果から逆算して類推すると神経以外でも身体の深い位置ではどこもエネルギーは何らかのシステムにより連携していると考えられるのです。

ですからCの症状を治す場合は全身のエネルギーと通じている深い位置にまで刺さないと効果が及びません。3センチから5センチ程度は刺さないと効かないでしょう。効果を徐々に奥深く波及させる意味で留鍼も必要です。
Dこれは「足三里」のツボの一番奥深いところです。
7センチ以上10センチ程度深く刺します。一般的には中国鍼が必要ですね。Cが「マントル」ならばDは地球の中心部分マグマが蠢く「核」でしょうか。
Dの実際の治療例では「五十肩」に患側(痛む肩側)の「足の三里」に10センチ程、鍼を刺すだけで肩の激しい痛みが止まって手が上にすっと上がった事が何度もあります。
つまり足の膝下に1本の鍼を10センチほど深く打つだけで瞬時に肩の痛みが止まるのです。症状が非常に激しい場合は「足の三里」のすぐ隣にあるツボ「陽陵泉」も用います。この「陽陵泉」も反対側の「陰陵泉」に鍼感が突き抜ける程(やっぱり10センチほど)深く刺す必要があります。

もちろんこの深さはあくまでツボ反応に依るので多少の個人差はあります。しかし私は7センチ以内で五十肩のツボ反応を感じたことはありません。痛みの激しい五十肩の場合は足の三里の5,6センチの深さまで鍼を刺し込んでも柔らかくスカスカでそれらしき反応は何もありません。ところがその鍼をそのままぐんぐんと10センチほど深く刺し進むと突然大きく硬い粘土板のようなモノに鍼の先端がぶつかります。この堅い筋肉の硬直板を鍼でゆっくり突き崩し消滅(緩解)させてしまうのです。この時患者さんは足全体がしびれる様な激しい鍼感(得気)に見舞われます。しかしこの「足三里」の奥深くに存在した岩のような固まりを上手に鍼で解すと嘘のように肩が軽くなり痛みが治まります。五十肩は不用意に患部に針を刺すと患者さんの筋肉の質が悪いと損傷させて余計に症状を長引かす危険性もあるのですが、取り敢えず足の三里で大きな症状を取ると治療家もそのリスクから解放されます。Cの症状にも5センチ以内に反応が無い時はずっと深く刺して硬結が無いか探してみます。

この事からも分かるようにたった一つのツボでも様々な効果が望まれるのですが、それらはただ漫然と適当な深さに鍼を刺したりツボを上から押しても表記通りの効果を得られないのです。
効かそうとする症状に応じて探るツボの深さも違いますし、本来は行う鍼のテクニックも適宜変えなくては行けません。つまり「ツボ」は深さによって通じている身体の部分が違うのですから、その効果も深さによって違います。ですからツボを上から押す「ツボ押し」では効果を十分に発揮する事は不可能なのです。地下の温泉を掘り当てるのだって地上面を例え100年間叩いても温泉は出てきませんね。実際に地下深くの温泉の存在する層までボーリングの杭を打ち込んで到達させないと温泉水は地上には上がって来ないでしょう? 人間の身体も皮膚表面から中心に向かって幾重にも異なったエネルギー層を持っているのですから(=鍼灸臨床からの類推)、治療目的のエネルギー層に変化を起こすためには皮膚の表面を押す(ツボ押し)だけではダメで、目的の層が存在する深さまで打ち込むボーリングの杭(=鍼)が要るんですよ。

「ツボ」がなぜ鍼灸医学の根幹であるか、押したり揉んだりするのでは無く、なぜ鍼を刺す必要があるのかが以上でだいたいお分かり頂けたのではないでしょうか。


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