★ 鍼灸治療後に悪化?★
名前 = A・T
性別 = 男性
age = 30to39
メッセージ =
 
私の父が脳卒中後遺症による半身不随で、鍼灸治療を行っていますが、最近、悪化しているようです。鍼を打つとすごく耳が痛くなり、体調も良くないようです。 ツボなど治療はまったく同じとの事。私の友人でも、腰痛とアトピーで鍼灸治療を受け、腰痛も良くなり、アトピーの状態も良くなったのですが、ある日突然、さらに強い腰痛がおこり、アトピーも顔だけのが首まで出てしまいました。本人いわく何も変わった事はしていないとの事でした。私の父のことで、友人のことも思い出したのですが、それはどうゆうことなのでしょうか。鍼灸で良い方向に向かっているのに、急に悪化することがあるのでしょうか。
 


 松岡です。多忙で返信が遅れ大変失礼致しました。さて肝心のご質問ですが、同じ治療を続けていながら一端回復していた症状が再び悪化した事実についてどの様に考えるべきかという内容でしたね。お父様の失った機能のリハビリ治療とご友人のアトピー治療とは実は同じ鍼灸治療でも治療指針が全く違うはずなのです。アトピーの場合は元々アレルギー疾患で根本的治療が難しく様々な要因で症状が変化しやすい疾病ですが、逆にリハビリ治療の場合は治療によって取り戻した機能は治療を継続している限りは容易に元に戻るとは考え難いのです。
ですからこれを同一に論じるのは本来かなり無茶だと思うのですが、敢えて「一概には言えない」という逃げの決り文句を使わずに考えてみたいと思います。
ま、しかし結論を先に述べると、鍼灸に限らず現代医学でも何らかの病気加療中において病の増悪はごく頻繁に有る事です。
ですが、この事実をどのレベルから考えるかがまず問題で、例えば「病気が治るとはどういうことか?」とまで根源に話を持って行くと、まだまだ解明されていない生命科学分野に問題の核心が及びまさしく仮説のオンパレードになってしまいます。それでそこまで深い部分ではなくもっとずっと身近な所から話を進めたいと思います。


身体において何らかの組織の損傷、機能不全、不具合等によって「健康」が損なわれた場合、先ず身体は自らの「自然治癒力」で元の「健康」に戻そうとします。
しかし自分の力だけでは手に余って元の健康な身体に「再生」「復元」「修正」が叶わなかった場合は悪いままでも何とか生命活動が維持出来る様に全身で辻褄合わせの「代償性変化」を起こします。
つまり悪いなりに何とか誤魔化しながらも日々の生活を送れるように身体を継ぎ接ぎしながら変えて行くのです。
この状態の方は取り合えずの生活は何とか出来ても疲労しやすく無理は全く利かない身体です。
(もっとも代償不能な程の大きな損傷であればすぐさま生命の危機に至るのですが・・)


救急の患者さん以外たいていの方はこのような状態で医療機関を訪れます。
そこでの治療方法には、
@代償性変化によって辛うじて保っているバランスを援助するレベルの治療=「対症療法」(補助療法を含む)とA病気の根源に迫って治す治療=「根治療法」=「本治療法」があります。

現在の日本経済に例えると判りやすいでしょう。
バブル崩壊後の政府政策のように日本経済の持つ古い体質や構造から来る「ほころび」を根源のシステムを変えずに税金を投じて表面的に繕っていく対策が「対症療法」で、
小泉さんが提唱している痛みを伴う「聖域なき構造改革」が「根治療法」と言う事になります。

リスクが大きい構造改革的「根治療法」は効果を実感するまでに時間も掛かり大変難しいので、どうしても「対症療法」が主体となります。しかし「対症療法」は、どれだけ税金(薬)を投入しても核心が変わって(治って)いないのですから、病が深い場合は徐々に最初の効果が薄れて来て元通りの病態に戻ってしまいがちです。時には身体の活力を無くし健康からますます遠のく結果に成る事も珍しくありません。
また一方の「根治療法」も曲がりなりにも辛うじてバランスを保っていた身体を一端は切り崩しますから、一気に余計に具合が悪くなったかの様な苦痛と不安を伴います。まして大きな改革治療は身体への負担が大きく必ず成功するとは限りません。


ここで話を鍼灸に戻しますと、あくまで代替医療としての役目を担うべき鍼灸では出来るだけリスクを軽減しながらも病気の根源にも迫る治療が求められています。つまり対症療法的治療と本治療法的治療と上手くミックスさせて行うべきなのです。
何故ならば鍼灸院に来られる方は既に現代医学の治療を受けながらも未だに身体的苦痛を多く残している状態の方が大半ですから、如何に※治療のメカニズムが違っていても既に対症療法だけで治る時期を逸してしまった方が多いはずだからです。

※同じ対症療法でも現代医学の医薬治療(アロパシー=症状を薬の力で抑え込む治療〜力で押す治療法)と違って鍼灸治療は「ホメオパシー」(症状を起こしている部分を刺激して自然治癒力を誘導する〜引いて誘い込む治療法)的対症療法ですのでメカニズムの違いから同じ「対症療法」でも病歴の浅い方ではそのまま治癒に向かって行くケースも少なくありません。もっとも慢性病の方の場合はやはり対症療法だけでは鍼灸でも再び悪化する事が考えられます。


次ぎに実際の鍼灸臨床について考えてみます。
「全く同じ治療を続けていたのに悪くなった」のは前記の「対症療法」に説明している通りです。(正確にどのような治療であったか判らないので必ずしも断定は出来ませんが・・)
対症療法は根本的治療ではないので同じ治療の繰り返しでは効果は少しずつ落ちてきます。その段階で身体本来の活力を無くしてしまうともっと悪く成る結果もあり得ます。

人間の脳は恐ろしく学習能力(順応性)が高く最初の頃の10の刺激によって発奮し発動していた大きな治癒エネルギーも回を重ねると同じ刺激量10では身体(脳)が学習《順応)して慣れてしまい全く発奮しなくなるのです。
ですから最初から大きな刺激量を与えていると正常な許容量を超えてしまい身体の活力を失う事に成りますから刺激は出来るだけ少ない量から始めるのが良いのです。

刺激量と共に刺激パターン(ツボの配穴)も脳に学習されない様に少しずつ変えなければ成りません。
これが鍼灸治療の難しいところで、いくつかの治療パターンを予め想定し適宜ローテーションを組替えて行く必要が有るのです。
もちろん脳の学習力のみならず治療によって病気の位相も徐々に変わって来ているはずから、その病態の変化によってもツボが大きく変わってくるのが普通です。患者さんの仕事など生活上の出来事(ストレス)によって病態に大きな変化が現れ治療方針を変えざるを得ない事も多々有ります。
「この状態ならば今までのツボでまだ攻め込める」とか「思ったよりも回復力が強い人だから陽経のツボだけで行ける」とか「想定した程良くなっていない。最初の診断時よりも病気が深い所に有りそうだ。触診(脈診)を仔細に行って配穴を変える必要があるナ・・」等々治療しながら体表をチェックして調整して行きます。
特に慢性化した病気は前記の代償性変化で全身に悪影響を及ぼしていますから一筋縄では行かないのが普通です。体力が損なわれているので(慢性病は虚証になります)絶えず視点を変えて全身をチェックしながら慎重に治療を進めて行く必要があります。

中国鍼灸では最初からワンクール10回とか決めて数パターンのツボを交互に行って治療を進める事が多いようですが、一般に我々の日本鍼灸ではチェックと微調整(check and balance)に重点を置いてその都度必要に応じてツボを変えて行きます。
(日本鍼灸は中国鍼灸のように統一された理論が無く、各流派毎に自前の理論展開を行っているので正しく一概には言えないのですが・・)

欧米では鍼灸イコール中国鍼灸だった時代が長かったのですが最近ではこのきめ細かな日本鍼灸型治療がアメリカやオーストラリアでも評価され始めているようです。昨年よりアメリカのトップ校で有名なハーバード大学医学部では鍼灸も履修科目と成ったのですが、ここでは日本鍼灸が採用されているそうです。Check and Balance機能が発達したアメリカならではかもしれません。



Q & A に戻る
ツボ探検隊の表紙に戻る