★ 鍼灸における才能とは?  ★
>名前 =T・M
>性別 = 男性
>age = 20to29
メッセージ =
> 初めまして、貴HPを少し読ませてもらいました。> 私は素人ですが、鍼灸の本を読み鍼灸に興味をもちました。> そして、鍼灸師の適性について意見を戴きたいのです。鍼灸師には才能が必要だと40代の方に> 仰られてましたが、その才能とは、数学で言うと高度な平面幾何学の問題を解けたり、コンピュ> ーターなら複雑なプログラムを組めたりすることができるようなものですか? 
> それとも、鍼灸の技術はやってみなければわからない、といった類のことでしょう
か?
> 宜しくお願いします。

こんにちは!ツボ探検隊の松岡です。
頂いたご質問は簡単にはお答えできない問題ですから、返信が大変に遅れて失礼いたしました。
やはりこの事を具体的に文章化したものは、あまたの鍼灸関係書が溢れている現在でも、そして過去にもおそらく例が無いだけに、あくまで「私見」では有りますが、慎重を期してお答えしたいと思います。

(適性について)
実は逃げでも何でもなくて事実として、とても一括りに出来ないほど特に日本の鍼灸治療の幅は広いので必ずしもその「適応性」は一色ではないのですが、私が以前に頂いたご質問に対する答えは
@鍼を打つテクニック Aツボを感知する能力については「才能」が必要であると言う意味で記しました。しかし、前記の如く日本の鍼灸治療は各流派が林立した百花繚乱の有様で、例えば治療時に刺す鍼の長さも常に1ミリ〜3ミリ程度で終始する鍼治療から、皮下10センチ程度の深さまで刺す治療もあります。又「ツボ」に関してもツボの個体差を重要視する治療も有れば個々患者さんのツボを自ら感知しないままテキスト通りのツボの位置に鍼を刺す治療を行う治療もあります。
全てに数ミリしか刺さない治療では少なくとも重症の椎間板ヘルニアの速効治療は出来ないでしょうし、患者さん固有のツボを察知しない治療ではどの様な疾患もパターン化されたものとして認識され治癒率は低くなるでしょう。つまり鍼灸の持つ可能性の限界に近いレベルまで目指そうとするならば間違いなく「才能」が要ると思っています。
それで前述の先ず@鍼を打つテクニックについて;
鍼を素早く無痛で有る程度の深さまで刺すテクニックも才能というか、特にたいした訓練をしなくても直ぐに出来てしまう人が案外多くいます。一般の方々に向けたツボ教室を開いておりますので分かるのですが、本当に1時間程度お教えすると無痛施針をすっかりマスターしてしまう「ずぶの素人さん」が現に居るのです。 何もしなくても指尖端の力が強い人で、例えば指先でつまんでスチール缶を軽々潰したり出来る人でしょうね。この様な人はごく小さな指先の動作で素早く一気に鍼を皮下に押し込む事が可能で、患者さんも痛みを感じるヒマがありません。この能力が有ると患者さんはリラックスして治療を受けられますから相当に大胆な治療(痛みを起こしやすい部位にも積極的に針が打てる)が出来ますね。

次にAツボを感知する能力について:
これが実は一番難しく、貴方の言われる
「数学で言うと高度な平面幾何学の問題を解けたり、コンピューターなら複雑なプログラムを組めたりすることができる才能」と近いかも知れません。
もっともそれよりも遥かにプリミティブな、音楽で言えば「絶対音階」や「リズム感」、絵描きの「空間認知力」「色彩感覚」、野球選手の「足」や「肩の良さ」(遠投力)みたいな感じでしょうか。
しかしこれは幼少よりそのつもりで訓練すれば有る程度は何とか成る能力にも思いますが、逆に言えば、すっかり大人に成ってから学び始めた人には非常に難しいですね。

患者さんの体表に触れて「ツボ」の存在を感知する(体表に開示されている体内情報を察知する)、
微細な脈の変化で五臓六腑の状態を知る(脈診法=現代医学の精密検査に替わる中国医学における病気の検査診断方法)、
診察室に入ってくる患者さんの様子、たたずまいを見て治療指針の大局を決定出来る(病気位相、全体像の把握)
等々、この様な患者さん(相手)の様子を素直に受け取るニュートラルな感受性を大人に成っても持ち続けているとすればこれはやはり「才能」と呼んでも良いのではないでしょうか。
早い話、脱サラをして鍼灸を学び始めた人にとってはここが一番のハードルであろうかと思われます。
 実際に中国に「名医探訪」に行きましても鍼灸名医と称される医師は何代も続く鍼灸医家の出身者が多く、幼少の頃より門前の小僧で無意識的に獲得した能力が他の医師との格差と成っている事が伺われます。
余談ながら、特に私が感心させられたのは医術の伝承教育が「父から子へ」ではなく「祖父から孫へ」と成っていると聞いたことです。我々の日常でも子供に宿題を教え始めると、いつの間にかけんか腰に成ってしまい、子供は勉強がイヤに成り、親子関係も悪化・・といった「元も子もない現象」が起こりがちです。家系に伝わる大事な技術はワンクッションおいた、父よりはおそらく気の長い祖父と可愛い孫との関係の方が相克する事も無く順調に技術の伝承教育が進むのは容易に察しが付きます。日本では鍼灸が様々な病気を治す医学としての認識も無く、時には大変な名医が存在しても社会的地位が低い事から尊厳を持って跡を継がせようとしないのは残念な事です。

話を元に戻しますが、そもそも@の自在に鍼を駆使する能力とAの相手のエネルギーを素直に感知する能力は実はむしろ相反するもので、@の力が強いと言うことは筋力を含め身体の自発的能動的エネルギーが強い事であり、Aはどちらかと言えば他人の力を受け取る、受動的エネルギーに優れていないと叶いません。@は男性的能力、Aは女性的能力と言えるかも知れません。 この辺の一見矛盾する問題を容易にクリアするのが「才能」の「才能」たる由縁でしょうか。
(生憎と私がその「才能」の持ち主で有るとは思っていませんが、今になってみますと若い頃にスタートした事が幸いしていると思うことは多いです)

以上は純粋に鍼灸治療技術者としての能力についてのお話で、これに診断技術を研鑽する「努力」、職業的倫理観(聖職意識?)などが加わると文字通りの「名医」の誕生となる様に思われます。

中国で有ればおそらくこれはこのまま「職業的成功」に直結すると思われますが、日本では必ずしもそうは成らないところが有ります。随分以前の事ですが、中国から日本の鍼灸を調査に来られた政府の鍼灸関係者から日本各地を調べた結果、日本で稼いでいる(職業的に成功している)鍼灸師には患者さんを口先で操っている詐欺師みたいな人間が多い、中国とは鍼灸が余りにも違う、日本の鍼灸は医学ではない等々徹底的にこき下ろされました。返す言葉は全く無かったです。 「詐欺師みたい」ではなくとも確かに日本では「ひどい無口」や「口べた」で成功した鍼灸師は少ない様に思います。(鍼灸に関わらずおそらく日本の治療家全てがそうではないのでしょうか?)
逆に中国に行くと、患者さんも鍼灸医もお互いに無駄口を聞かず無言で淡々と流れ作業的に次々と患者さんを「こなしている」感じの治療施設が多いのです。 

しかし、思いっきり良い方向に考えれば日本人は「言葉で癒される人間」が中国に比べて圧倒的に多いと言うことで、この現実(needs)に代替医療としての鍼灸の方が合わせてしまった結果とも言えますね。  私の治療院でも恥ずかしながら、世間話でお互いに盛り上がって患者さんの知らない間に治療が終わっている事が多いのは事実です。(爆) 

長々と綴って参りましたが、さてご参考に成りましたか?


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